組織開発にせよ、事業開発にせよ、人材育成にせよ、組織の課題を解決するためのプロジェクトの出発点は、問題の本質を捉えて「何が本当に解くべき課題なのか」を特定することです。これを書籍『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』では「課題のデザイン」として、手順を解説しています。
課題のデザインが難しい理由は、いくつかあります。大前提として、組織のステークホルダーの一人ひとりがとらえる”問題”は、たとえ同じチームに所属していたとしても、それぞれの認識によって解釈が異なるため、合意形成が困難であるからです。上司にとっての問題設定は、部下にとっての解くべき問題とは限りませんし、階層が同じでも、これまでの経験や役割によって問題の解釈は異なります。課題をデザインする際には、組織に多様な立場と暗黙の前提が存在することを想像しなければなりません。
また、もし仮に「これが解くべき課題だよね」と組織内で合意が形成されていたとしても、その設定が適切とは限りません。往々にして、問題の渦中にある人が課題設定を行うと、狭い視野から設定されていたり、重要な視点が抜けていたりするケースが多く、課題設定の段階で失敗している場合が少なくないのです。
そうしたケースに目を向けてみると、うまくいかない課題の設定の仕方にはいくつかの共通項があります。今回の記事では、よくある5つほどの失敗パターンを紹介します。
課題設定の罠(1)自分本位
課題を設定する際に、設定者にとっての利害にフォーカスしすぎているために、関係者全員にとって建設的な課題になっていなかったり、解決する社会的意義が欠如していたりするパターンです。
どうすれば売り上げがあがるか?どうすれば地域に人が呼び込めるか?といったような自分の利益を守るための課題設定は、外部の協力者が得難いほか、最終的にユーザーや観光客など課題解決の価値を享受するステークホルダーの視点が抜け落ちるリスクがあります。多様なステークホルダーにとって建設的であり、社会的意義のある課題に再定義する必要性があるでしょう。
課題設定の罠(2)自己目的化
本来の目的について十分に検討せぬまま、手段が自己目的化してしまうパターンもまた、少なくありません。最初は何か目的があって具体的なツールやソリューションの導入を検討していたはずなのに、気づかないうちにそれが自己目的化してしまう..というのはあるあるですね。たとえば
「イノベーションのために「デザイン思考」の研修パッケージを導入したがうまくいかない。どうすれば、デザイン思考が現場でワークするか?」
みたいなケースですね。”流行りの手法”を導入したい場合などには起こりがちです。
課題設定の罠(3)ネガティブ・他責
課題の設定が後ろ向きになっているパターンです。同じ問題状況であっても、それに対峙した際に状況をポジティブに解釈するのか、ネガティブに解釈するのか、人によって異なります。
たとえば「潰すべき組織の問題は何か?」「我々はこのままで良いのだろうか?」と問うのと「この状況を楽しく乗り越えるために、私たちはどのようなコラボレーションが必要か?」と問うのとでは、目の前の出来事に対する見え方は変わるはずです。関係者を巻き込みながら創造的に問題を解決していくためには、関係者の多くが「前向きに取り組みたい」「解決したい」と思える課題設定にしておくことが重要です。
また、ネガティブパターンのうちよくあるのは、他責的な考え方で課題を設定してしまうパターンです。人材育成などの現場で起こりがちです。つまり、問題の原因を、学び手の努力や能力不足として捉えてしまうパターンです。
課題設定の罠(4)優等生
課題の設定が前向きなのだけれど、ファシリテーションがうまくいかないケースもあります。それは、課題の設定が”お利口さん的”というか、誤解を恐れずに言えば”優等生的”になっているケースです。たとえば「持続的な社会を作るにはどうすればいいか」「ポイ捨てを減らすにはどうすればいいか」といったような課題設定です。大事な問いではありますが、社会通念的に「良し」とされていることが前提になりすぎていて、「わかっちゃいるけど..」となりやすく、それらしい意見は多数でるものの、議論や対話がブレイクスルーしないのです。こういう課題設定でワークショップをやると、どのグループも似たような結論に着地することが多いです。
課題設定の罠(5)壮大
定された課題が壮大すぎるパターンです。組織の問題は複雑ですから、根本的に解決しようとすればするほど、本質的な課題設定になるため「100年後の人類を幸せにするプロダクトを作る」「全社員を巻き込んで理念を刷新し、さらに評価システムも作り替える」など、問題のサイズが大きくなりがちです。
課題設定が壮大すぎると、当事者にとって自分ごとになりにくく、具体的にどこから考え、何からアクションすればよいかわからないため、現実的な解決に向けて対話を進めていくことが難しくなります。もう少し当事者の目線で言い換えたり、現実的な時間スケールで捉え直してみたり、問題をいくつかに分割するなど、課題のサイズを現実的なサイズに落とし込む工夫が必要でしょう。
このような失敗パターンに陥らないように注意するだけでも、問題の本質を見誤らず、課題を定義する際の建設的な指針になるでしょう。
組織の問題の本質を見抜き、適切な課題を定義する思考法については、書籍『問いのデザイン:創造的対話のファシリテーション』で体系的に解説しています。是非ご覧ください。
ミミクリデザイン &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。
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