組織変革をプレイフルに推進するための4つの変数:信念・態度・活動・道具

商品開発、サービスデザインなどのイノベーション推進、またその土台となる組織開発や人材育成のプロジェクトを成功させるためには、本質的に「組織が変わる」プロセスに伴走する必要があります。しかし”組織を変える”というのは言うは易しで、長い年月をかけて築き上げられたシステムはそう簡単には変わりません。一時的に外部から強い刺激を与えて、組織を無理矢理変えようとしたところで、一過性の変化はすぐ元に戻ってしまいます。

私たちが日々繰り返している「お箸の持ち方」や「喋るときの癖」など、長年をかけて習得した作法がなかなか変わらない(上手にもならないし、下手にもならない)のと同様に、「ずっとやってきたこと」をいきなり変えることは、簡単ではないのです。

組織変革のペインフル・アプローチとプレイフル・アプローチ

停滞したルーティンを揺さぶり、変化を生み出すための”お手軽”な方法は「このままではまずい」「変わらなければならない」ことへの危機感を煽ることで、変化を迫ることです。これを私は「Painful Approach(ペインフル・アプローチ)」と呼んでいます。多くの先行研究が指摘する通り、成人した大人にとって「変わる」ことには「痛み」が伴いますから、たしかに効率的なやり方なのかもしれません。

それに対して、ネガティブなエネルギーに期待するやり方ではなく、遊び心を活用しながら組織を変えていく「Playful Approach(プレイフル・アプローチ)」と呼べるような方法が、組織変革のアプローチとして存在するのではないか、と考えています。これはいわゆるポジティブ心理学を基盤とした組織開発の手法と重なる部分もあると思いますが、個人的には似て非なるものをイメージしています。

Painful Approach(痛みを伴うアプローチ)
変化の妨げになっているが、たしかに“いまここ”で起きている既存の組織システムに内在している事象や葛藤に向き合い、痛みを伴いながらも組織システムを変化させるアプローチ

 

Playful Approach(遊び心あるアプローチ)
実験的に日常とは違うモードで活動をしてみることで、既存の組織システムを異化し、新たな組織システムの可能性を楽しみながら探索するアプローチ

LEGOを使えばプレイフル?組織変革のアプローチを左右する変数とは何か

遊び心といっても、たとえば単に「LEGOブロック」を使ってワークショップをすれば、すなわちプレイフル・アプローチかといえば、そうではありません。LEGOというのはあくまで道具。ワークショップを楽しく演出し、子ども心を喚起してくれる道具であることは間違いありませんが、活用する使い手に遊び心が欠けていたり、組織の支柱となる信念にペインフルさが染みついていたら、どれだけ楽しげな道具を用意しても、意味がありません。

そこで、組織変革のアプローチをペインフルなものにするか、プレイフルなものにするかを分ける変数を、「信念」「態度」「活動」「道具」の4つの異なる階層から整理してみたいと思います。前者ほど抽象度が高く、上流のWhyに位置付き、後者ほど具体性が増しますが、下流のHowに位置付きます。

1.信念レベル
信念レベルとは、文字通り、どのような人間観、価値観に拠って立つのか。組織において何を正しく、何を美しいと信じるのか。組織と事業を推進する上で、大前提となるため自覚されにくく、いわゆる「暗黙の前提」となりがちです。それゆえに、組織においても最も変わりにくく、それでいて重要な変数です。

2.態度レベル
態度レベルとは、目の前で起きている具体的な問題や現象を、どのような視点から理解しようとするのか、という意味解釈の態度のレベルです。信念の影響をおおいに受けますが、態度を意識的に変えることは可能ですから、異なるレベルとして位置付けています。

3.活動レベル
活動レベルとは、組織において、具体的にどのようなアクションを施策として導入し、実行するのか。推進する活動のプロセスに関するレベルです。たとえば「会議の冒頭10分で雑談ベースのチェックインをする」「現場全員を巻き込み、ビジョン策定のワークショップを実施する」などは、活動レベルの施策です。

4.道具レベル
道具レベルとは、活動の支えとしてどのようなツールを活用するのか、という人工物のレベルです。活動レベルと切り離せませんが、「LEGOブロック」「カラフルな付箋」「カードゲーム」「ボードゲーム」など、道具にアイデンティティがある施策は、道具レベルの施策です。表層的なようで、遊びと道具は密接に結びついているため、無視することができません。

組織変革のプレイフル・アプローチを実現するための信念・態度・活動・道具の一貫性

これらそれぞれの階層でどのようなスタンスを取るかによって、組織変革の方向性は変わります。そして、それぞれの階層のスタンスが一貫していて、矛盾がないことがとても重要です。

たとえばいくら「失敗を恐れずに挑戦しよう」というメッセージ(態度レベル)が掲げられていても、マネジメント層が心の奥底ではリスクを避けていたり(信念レベル)、業務エラーを減らすためのアクションばかりが導入されたり(活動レベル)するようでは、組織変革に一貫性は生まれません。

同様に、一見プレイフルである「LEGOブロック(道具レベル)」が活用されていても、それ以外のレベルがプレイフルでなければ、組織変革は真の意味ではプレイフルにならないでしょう。

何をもって”プレイフル(遊び心がある)”とするかの解釈は多様に考えられ、まだ手法を体系化できているわけではありませんが、組織変革のプレイフル・アプローチを実現するためのエッセンスの例を、信念・態度・活動・道具のレベルから考えてみます。

1.信念レベルのプレイフル・アプローチ:人間の可能性を信じ、すべての現象はポジティブリフレームが可能だと信じる

前提として、従業員やステークホルダーをはじめとする「人間の可能性を信じる」というスタンスは欠かせません。マネジメント層が「人間は管理すべき愚かな生き物である」という信念を保持したまま、いくら下層のHOWレベルを”プレイフル風”にしても、それでは真にプレイフルな組織変革にはなりません。

また、どのような苦境であっても、「何事も楽しめるはずだ」と信じることも重要でしょう。言い換えれば、問いの立て方ひとつで、課題はポジティブにリフレーミングすることが可能なのだと信じることにほかなりません。

2.態度レベルのプレイフル・アプローチ:問題や現象を前向きに解釈し、”不要不急”の実験を積極的に繰り返す

態度レベルでは、実際に組織において発生する問題や現象に対して、前向きに解釈しようとする態度が必要です。闇雲に楽観的にふるまうのではなく、冷静かつ現実的にファクトを捉えながらも、ポジティブな意味にリフレーミングしようとする姿勢を持つことです。信念レベルのプレイフルさが前提となります。

また、失敗を恐れずに、実験を好み、新たな施策を積極的にトライする態度も必要でしょう。うまくいくかわからないし、絶対に必要かどうかもわからないけれど、“不要不急”の実験を次々に打っていく。失敗するかもしれないが、その結果から学べばよい。そんなスタンスが必要です。

3.活動レベルのプレイフル・アプローチ:ボトムアップ、”ひねり”を加える、非合理的な余白を作る

活動レベルのプレイフル・アプローチは、無数に考えられます。ひとつには、組織としては「ボトムアップ」の活動を多く取り入れることです。組織変革の旗を振るのはトップの役目ですが、推進するアクションの大半がトップダウンになると、どうしても組織からプレイフルさは失われていきます。

また、合目的的な効率に支配された「会議」「施策」「研修」などで埋め尽くすのではなく、目標を達成するためにあえて回り道をしたり、一風変わった方法でアプローチするなど、「ひねり」を加えることも有効です。これはワークショップデザインの得意とするところです。

加えて、一見不要に思われる非合理的な余白を活動プロセスに含ませることも有効です。余白はボトムアップの促進にも寄与しますし、何よりも遊びの本質は”無駄”にあるからです。

4.道具レベルのプレイフル・アプローチ:非日常を象徴するツール、既存の遊び(ゲーム)道具の輸入

道具レベルのプレイフル・アプローチは、これまで繰り返し例として挙げてきた「LEGOブロック」のような、非日常を象徴とするツールや玩具を導入する方法は一般的です。

プレイフルな風土を演出するためには、組織に蔓延している”規範”に揺さぶりをかけなければいけません。多くの組織には、ネクタイ、スーツ、パソコン、書類、会議デスクなど、フォーマルさを象徴とする人工物で埋め尽くされています。非日常を想起させるような道具を積極的に活用することで、信念・態度・活動レベルで導入してきたプレイフル・アプローチを後押しするのです。

また効果的なのは、既存の遊び(ゲーム)の形式や道具を輸入してくることです。サイコロ、トランプ、カードゲーム、ボードゲームなど、明確に「遊びである」ことを想起させるツールを活用することで、プレイフル に設計した活動プロセスをさらに「遊びらしく」演出することができます。

ミミクリデザインとDONGURIがこれまでに開発した「PLAYFOOL Workshop」や「Team of The Dead」などは、背後にあるプレイフルな信念・態度・活動のデザインを、わかりやすい「道具」に落とし込むことで、パワフルなツールに仕上がっています。

ミミクリデザインが共同開発した「PLAYFOOL Workshop」のツールキット
DONGURIがアトラエと共同開発した遊びながらマネジメントを学べるボードゲーム

リモートワーク中心となっている現在においては、オンライン会議の背景画像で遊ぶ、などもやりやすい道具レベルのアプローチではないでしょうか。ミミ&グリでは、最近KOUが開発した「emochan」をZOOM背景にして、それぞれの「今の感情」をチェックインで話す活動を導入しています。道具×活動レベルの施策ですね。

カード型の感情表現背景ツール「emochan」を活用したオンラインチェックイン

以上、試論として、組織変革のプレイフル・アプローチを実現するための信念・態度・活動・道具レベルの指針の例について紹介してきました。これは考えられる手法のごく一部であり、今後よりノウハウを体系化していけたらと思っています。「WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(WDA)」では、今後より具体的に解説をしていくつもりなので、お楽しみにしていてください!


ミミクリ &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。

学術研究を裏づけにしながら、組織をよりよくするお手伝いをさせて頂いた実例資料を無料配布しております。下記よりぜひご確認ください。

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