デザインコンサルティングとファシリテーションの専門組織が提携する4つの研究的意義

2020年3月、Mimicry Design(株式会社ミミクリデザイン)とDONGURI(株式会社ドングリ)は資本業務提携を行いました。それに伴い、以下のように両者のCEOが相互にボードメンバーに就任し、横断経営を推進していきます。

安斎勇樹 → Mimicry Design CEO 兼 DONGURI CCO(Chief Cultivating Officer)

ミナベトモミ → DONGURI CEO 兼 Mimicry Design COO(Chief Operating Officer)

ミミクリデザインは、3月から4期目を迎える若い会社です。もともと2期目の頃から「100名を超えるファシリテーター組織を目指す」ことを意思決定し、DONGURIの組織デザインのコンサルティングを受けていました。自分たちはファシリテーションの専門家ですから、組織作りに自信がなかったわけではありません。社内で何度も対話を繰り返して、ボトムアップにビジョン・バリュー・カルチャーを形成してきた自負がありましたが、ソフトの部分(個人動機や関係性構築)に力をかける一方で、ハードの部分(構造と仕組み)に弱点がありました。そこで、DONGURIが得意とする組織デザインの力を借りて、ミミクリデザインの構造や管理体制を1年かけて強化していたのです。その過程で、ミナベ氏と意気投合し、社会や経営に対する思想が一致しながらも、両社のケイパビリティの融合に大きな可能性を感じ、じっくりと提携の準備を進めてきました。

共に実現していきたいビジョンモデルとして、クライアントの創造性を組織/チーム/個人の3層のレベルで土壌を耕していくイノベーション支援モデルとして、「Creative Cultivation Model(CCM)」を開発しました。

Creative Cultivation Model(CCM)

ミミクリとドングリが提携する研究的意義

今回の提携は、経営者としてはもちろん、研究者としても大きな可能性を感じています。このサイト「idearium(アイデアリウム)」では、安斎勇樹とミナベの組織イノベーションに関する論考や、横断経営に関する手ごたえや気づきについて、発散的にライトなメモを残していくことを趣旨としています。今回の記事では、安斎が研究者の目線から、今回の資本業務提携にどのような可能性を感じているか、書き記しておきます。(初回なので趣旨に反して長くなります笑)

(1)組織開発と事業開発の理論をつなげたい

(2)組織開発と組織デザインの融合アプローチを確立させたい

(3)学習論と経営学をつなげたい

(4)組織変革におけるプレイフルアプローチを探究したい

(1)組織開発と事業開発の理論をつなげたい

まず第一に、これまで別々に議論されていた「組織開発」と「事業開発」の理論をつなぎあわせるための探究をしていきたいと考えています。

組織開発と事業開発を接続する

組織開発については歴史と骨太な理論群があり、事業開発についてもデザイン研究や「意味のイノベーション」などの研究が盛んです。ところがこの2つはあまり理論的には接続していません。以前にロベルト・ベルガンティ教授が来日された際も、「意味のイノベーションのプロセスを組織内の誰がどのように実行していくのか」と質問を投げかけたことがありますが、そこはあまり検討がなされていない印象でした。

2017年にベルガンティ教授来日された際のパネルディスカッションの様子

(2)組織開発と組織デザインの融合アプローチを確立させたい

組織開発(Organization Development)と組織デザイン(Organizational Design)は、組織をよりよくするための方法論として確立されていますが、実は明確に異なる方法論として位置付けられています。

組織開発(Organization Development)
組織における目に見えない人間の内面や関係性(プロセス)に着目しながら、ボトムアップ型の対話を通して課題解決をファシリテーションしていくスタンス。ミミクリデザインが専門としている方法論です。

組織デザイン(Organizational Design)
組織の構造設計に着目し、分業と調整のメカニズムを用いて、適切な業務の割り振りや、階層やコミュニケーションラインを整えていくスタンスをとります。こちらはドングリが専門としている方法論です。

この2つのアプローチは相容れないスタンスとして認識されがちですが、組織変革を効果的に進めていく上で、この2つを組み合わせることは大変有効です。実際に構造とプロセスの両面に着目して、半トップダウン半ボトムアップのアプローチで進めていくプロジェクトの相談が増えており、まさにこれはミミ&グリの業務提携によって探究していきたい領域です。

(3)学習論と経営学をつなげたい

安斎はこれまで学習論(学習科学、教育工学、認知科学領域)を軸足の領域としながら、ワークショップデザインやファシリテーションの研究をしてきました。あくまで対峙した一人ひとりの人間の個性や内面に向き合い、それぞれの内側から湧き上がる衝動(impulse)を大切にしながら、対話的なコミュニケーションを促していく。そのなかで、一人では得られなかった気づきや発見、手触りのあるアイデアが生み出される過程を研究してきました。

組織変革に関わる経営学の理論をみてみると、ここまで一人ひとりの人間の内面や変化のプロセスは追いかけずに、もう少しマクロな目線から物事を捉えるフレームワークが多いように思います。けれども、どんなに大きな企業であっても、組織は人間の集合体です。組織をボトムアップに突き動かしていくような方法論を確立するためには、安斎がこれまで探究してきたようなミクロな学習論と、マクロな経営学をブレンドする必要があると考えています。

昨年から組織や経営系の学会にも参加するようにしているので、今年は論文執筆にも挑戦しながら、研究領域を拡張していきたいと考えています。Creative Cultivation Model(CCM)もまた、この2つのレベルを往復しながら開発したものです。

学習論と経営学をつなぐ

(4)組織変革におけるプレイフルアプローチを探究したい

組織変革のアプローチは「このままではまずい」「変わらなければならない」というモチベーションを起点とした方法が主流であることに問題意識を持っています。そうした「痛み」を伴うやり方をあえて「Painful Approach(ペインフル・アプローチ)」としたときに、それに対比させるかたちで、遊び心を活用した「Playful Approach(プレイフル・アプローチ)」なるものが、組織開発の方法論のひとつとしてありえるのではないかと思うのです。

Painful Approach(痛みを伴うアプローチ)
変化の妨げになっているが、たしかに“いまここ”で起きている既存の組織システムに内在している事象や葛藤に向き合い、痛みを伴いながらも組織システムを変化させるアプローチ

Playful Approach(遊び心あるアプローチ)
実験的に日常とは違うモードで活動をしてみることで、既存の組織システムを異化し、新たな組織システムの可能性を楽しみながら探索するアプローチ

ミミクリデザインは社名の由来に「見立て遊び(mimicry)」を採用している通り、創業期から「遊び心」を重視した人材育成や組織開発のアプローチにこだわってきました。そしてドングリもまた「GAMECHANGE」「PLAYGROUND」をスローガンに掲げ、遊びを重視してきた会社です。

DONGURIがアトラエと共同開発した遊びながらマネジメントを学べるボードゲーム

ミミクリとドングリが提携することによって、組織変革におけるプレイフル・アプローチについても、積極的に探究し、メソッドやツールキットを開発していきたいと考えています!

おわりに

以上、ミミクリとドングリの資本業務提携によって探究していきたい研究視点の可能性について紹介しました。研究活動は、2社の横断経営のOKRとしても明確に位置付けており、予算的にもリソース的にも積極的に研究に投資をしていく予定です。研究と実践の両輪を回しながら、ミミクリ&ドングリにしか生み出せないソリューションを研いでいく所存です。組織や事業の課題でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

プレスリリースも是非ご覧ください。


ミミクリ &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。

学術研究を裏づけにしながら、組織をよりよくするお手伝いをさせて頂いた実例資料を無料配布しております。下記よりぜひご確認ください。

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組織と事業の変革を実現するためには、当事者一人ひとりの衝動に蓋をせず、対話的な関係性をファシリテートすること。そして変革の土台となる組織の構造と仕組みをデザインすること。この両輪を回すことが重要です。まずはお気軽にご相談ください。組織をよりよくしたい衝動がある方からのご相談を心待ちにしております。

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