組織開発のワークショップデザインは「性悪説」で、ファシリテーションは「性善説」でやるとうまくいく、という仮説

ミナベ氏が「組織デザイン概論」というシリーズ記事を開始し、以下の「性善説と性悪説、どちらが組織デザインの正解か」という記事が反響を読んでいます。

記事のポイントとしては、以下のようなものでした。

  • 性悪説といっても「従業員はどうせ学習しないので、強制的に働かせよ」と考えるものではない
  • 性善説にせよ、性悪説にせよ「人の可能性を信じる」ことを起点にした組織デザインである
  • 性悪説は人的エラーを防ぐことに重きを置く思想 / 性善説は、目的実現のボトルネックを取り除く思想
  • 最も安定するバランスは、現場レイヤーは性悪説と性善説の混合で改善し、組織レイヤーは性善説で制約を解放すること

組織開発の場合はどうなのか?

組織をよりよいものにしていくHOWを考える上で、「組織デザイン」と「組織開発」はセットで考える必要があります。

組織デザイン(Organizational Design):
組織の構造設計に着目し、分業と調整のメカニズムを用いて、適切な業務の割り振りや、階層やコミュニケーションラインを整えていく方法。

組織開発(Organization Development):
組織における目に見えない人間の内面や関係性(プロセス)に着目しながら、ワークショップを開催し、ボトムアップ型の対話を通して課題解決をファシリテーションしていく方法。

組織開発のためのワークショップデザイン、ファシリテーションにおいても、性善説・性悪説の考え方は適応でき、かつ重要な枠組みになると考えています。

ワークショップデザイン、ファシリテーションにおける性善説・性悪説のアプローチの違いをまとめると、こんな感じでしょうか。

  • 性善説:ワークショップの参加者は、モチベーションが高く、主体的に試行錯誤をして、対話を深めてくれるものとして考える。手取り足取りサポートしようとするのではなく、参加者の衝動に蓋をせず、ポテンシャルの発揮を優先する考え方。
  • 性悪説:ワークショップの参加者は、必然性がない活動に動機づけられるとは限らず、必ずしも他者と対話を深めたいとは思っていないものとして考える。きっかけや支援がなければ良いアウトプットを出すことはできないので、足場かけとプロセスデザインを戦略的に作り込む考え方。

一言で言えば、性善説は「人は自由を与えれば、勝手にいい感じで学んだり創ったりしてくれる」と捉える考え方で、性悪説は「人は一定の支援やきっかけがなければ、創造的な対話を深めることはできない」と捉える考え方です。

組織デザイン概論と同様に、性悪説といっても「人は学ばない生き物だ」と考えるのではなく、性悪説にせよ、性善説にせよ、根底に「人の可能性を信じる」ことは変わりません。

初心者ほど、性善説でプログラムをつくりがち!?

ミミクリデザインで実施するワークショップデザインの講座で、受講者の方々が作成されたプログラムを添削されていることが多いのですが、特に、初心者のファシリテーターの方は、ワークショップのプログラムを「性善説」でデザインされる方が多いように感じています。

ワークショップデザインやファシリテーションのスキルを学ぼうとする人は、前提として人の可能性を信じている前向きな方が多いため、ある意味で当たり前かもしれません。

けれども、そのように性善説的にデザインされたプログラムによって、潜在的にはモチベーションがあったはずの参加者が、浅い思考で停滞してしまったり、対話がすれちがったまま噛み合わなかったり、日常のモードから抜け出せないアイデアに終始してしまっていたりと、性善説によって、結果としてポテンシャルが発揮されないまま展開されていまうケースが少なくないのです。

組織開発ワークショップにおける性善説と性悪説の織り交ぜ方

私の持論は、プロジェクト設計の上流フェーズにおける課題を定義する段階、すなわちワークショップで取り組む大きなテーマ・問いを設定する段階は、性善説で考えるべきだと考えています。

最初のうちから「この組織は、手取り足取り支援しなければ、うまくいかないのではないか」と性悪説で考えるよりも、組織のポテンシャルが発揮されることを前提に、性善説的に大きな問いをデザインしたほうが、プロジェクトとして前向きなものになるでしょう。

しかしながら、具体的に活動のプロセスを設計するワークショップデザインの段階では、性悪説の視点を入れ込んでプログラムを設計すべきと考えています。ワークショップとは、日常のモードから離れて、普段とは異なる視点から発想することを起点にしたボトムアップ型の変革の場です。参加者がどんなに優秀で、潜在的にモチベーションが高い参加者であっても、プロセスの支援や仕掛けがないまま「いつものやり方」「いつもの考え方」から脱却することことは容易ではありません。

「きっといい感じで取り組んでくれるだろう」と楽観的に考えるのではなく、あらゆるリスクを考慮して、確実に学習と対話が深まり、創発が生まれるための戦略的計画を仕込んでおくべきです。そうした工夫を積み重ねることなく、「固定観念にとらわれずに、自由にアイデアを考えましょう!」などと、正面から性善説をふりかざすファシリテーションしてしまうのは、ワークショップデザイナーとして言語道断と考えています。

他方で、プログラムデザインをしっかり戦略的に作り込んでおけば、当日のファシリテーションは、性善説で進行すべきだと考えています。きちんと事前に問いとプログラムを作り込んだのだから、当日は参加者のポテンシャルを信じて、衝動に蓋をせず、組織の問題をなすりつけあう他責思考の対話にならぬように、前向きな気持ちでプロセスに伴走すべきです。慎重に仕込んで、当日は楽しむ、というような感覚でしょうか。

以上、ミナベ氏の組織デザイン概論に呼応するかたちで、対となる組織開発の考え方をまとめてみました。


ミミクリ &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。

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