100年前に初声をあげた、ロシア構成主義者によるデザイン思想。

前回デザインが事業貢献できることを経営層へ説明するメモを書いたのですが、今回はロシア構成主義のデザイナーを通じ、100年前にデザインの思想がどのように形づくられたかを探ります。ちなみに私は大学でロシア・アヴァンギャルドを学び、卒論をロシア構成主義で書く位のデザインオタクでした。

今回の内容は下記です。

1.デザインイノベーターとしてのロシア構成主義者
2.概念を形として表現する、新たな方法論
3.機能的で実用性あるデザイン
4.領域を融かした集団としての活動
5.デザイナーに求められたあり方

デザイン・イノベーターとしてのロシア構成主義者

ロシア・アヴァンギャルドは1910-1930年代に盛んとなり「文学・写真・映画・絵画・建築・デザイン」などあらゆる芸術家を巻き込んだ運動です。ロシア・アヴァンギャルドの中にはさらに複数グループがあり、その中の一つがタトリン・リシツキー、ロトチェンコによるロシア構成主義です。デザインの原点として「バウハウス」があげられることがありますが、源流を遡ればロシア構成主義者の思想に辿り着きます。

ロシア構成主義者達の凄さは、それまでの芸術のあり方に異論を唱え「目的達成のための方法論」として「デザイン」の姿勢を確立したことにあります。当時の芸術は資本家のものでした。これに対し構成主義者は「芸術を生活の中へ」と語り、芸術を民衆の生活のために用いる「実用的なデザイン」を重視していました。こうした構成主義の思想は、デザインを宣伝活動に活用したい国家の思惑と合致し、社会と一体化となり発展を遂げました。

概念を形として表現する、新たな方法論

ロシア構成主義が開拓した方法論として、概念や理念を「デザイン」で表現することがあります。国を巻きこんでアイデンティティを練りあげながら、「機能性や技術の素晴らしさ」をテーマに、工業製品をコラージュして、理念を形で表現しました。現代では多くの企業が当たり前に行っている、CIデザインの草分け的な存在ともいえ、抽象概念を視覚的に伝える実験活動を(おそらく)世界ではじめて大々的に取り組みました。

機能的で実用性あるデザイン

ロシア構成主義といえば、ポスターデザイン。理念のデザインと連携しながら、その浸透を図るためにポスターが有効活用されました。当時のロシアは識字率が17%だったそうで、文字よりも「視覚的な表現」による訴求が大いに有効だったそうです。商業的な広告デザインも大いに発展し、市場発展の基盤となりました。

「構成主義は、数学と芸術の境界を消した」と言われたそうですが、彼らは数学的な機能的なデザインに傾倒しました。デザイン領域は「建築・舞台美術・ファッション・プロダクト」に広がり「機能性とは何か?」を問いなおしながら、多くの挑戦的デザインをしました。

領域を融かした集団としての活動

ロシア・アヴァンギャルドは、共通理念のもと「詩・文学・写真・映画・絵画・建築・デザイン・演劇・ファッション・バレエ」などあらゆるジャンルの芸術家やデザイナーが集い、ロシア構成主義も含めて集団組織的な活動を行っていました。領域を融かしながら協力しあい、運動を進めていたことがその特異性を際立たせています。

またロシア・アヴァンギャルドに参加した芸術家達により、”ヴフテマス”という芸術学校も設立されています。当時としては先進的で、産業デザイン、工業デザインなど機能的なデザインの教育を重視していました。ヴフテマスの教育者がその後バウハウスに合流するなど、デザイン教育の発展も担っています。

デザイナーに求められたあり方とは

ここまでロシアの先人達が開拓したデザイン領域を紐解いてきました。当時のロシアは国家や社会の大きな変換点にあり、国民にも期待と不安が渦巻く状態でした。その中で自ら社会へ問いをたて、集団的なコラボレーションを通じながら、「社会の目的」の実現のために新たなデザイン領域を開拓し続けました。そうした大きなビジョンを持って進んだデザイナー達の作品群は今見ても独特のパワーに溢れています。

ロシア構成主義者達の活動は、最終的にスターリンに政権が移ったことにより弾圧を受けて終息へと向かうのですが、それでも彼らが当時担った責任と成果のスケールの大きさには度肝を抜かれます。なんといっても国全体2500万人を動かした活動ですから。そこには原初のデザインにおける、圧倒的な可能性を感じずにはいられないのです。

おわりに

前回デザインが事業貢献できることを経営層へ説明するメモでこんな記載をしました。

優秀なデザイナーほど「業務が従来のデザイン領域ではない」言われます。デザインの”イノベーター&コラボレーター”の思想をそのままに、デザイン手法にこだわりを持たず、事業全体をリードする姿が現実的な姿です。」

https://idearium.don-guri.com/designt-jigyokoken/

これは近代デザイナーに求められる姿ですが、ロシア構成主義者達は時代を超えて、このありかたを体現していたと考えています。僕自身こうした”原初のデザイン”を大学時代に学びながら、デザインの可能性に感銘を受けたことが”デザインファーム”を創業した原点でもあります。また当時のロシアの様にあらゆる創造性を持った人々が集い、その領域を融かしあいながら集団により大きな渦をを産むにはどのようにすればいいのだろう?とミミ&グリで模索を続けています。

デザインの可能性を信じながら、時代にあわせた新しいデザイン方法論の探索を進めることが、今でもデザイナーに求められてることと思いますし、僕自身も挑戦し続けたいことでもあります。常に希望と期待をもちながら、デザインにとりくみ続けたいですね!

以上、ロシア構成主義オタクのミナベからでした!


ミミクリデザイン &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。

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