チームに人が増えても価値ある意思決定を続けるには?「情報科学にもとづく組織デザイン15の技法」〜組織デザイン概論vol.2

組織は人の限界を突破する、優れた情報処理システム

人が少なかった時は意思決定が早かったのに、人が増えたら何も決まらなくなるのはスタートアップでもよく言われることです。情報が増えると「意思決定」が遅くなる原則があるのですが、この問題に立ち向かい、解決してきたのが組織デザインです。

ノーベル経済学賞を受賞した組織論の巨匠「ハーバート・A・サイモン」は「組織は、人の限界を克服する情報処理システムである」としました。人が増えても組織の情報設計をすることで「一人で考えるよりも、多くの情報処理」ができ、むしろ「意思決定の質は上がる」と言います。

今回は「情報科学」としての組織デザインの方法論を紹介し、チームに人が増えても素早く質の高い意思決定はどうすれば実現できるのか考えていきます。

目次
・トップの意思決定はなぜ不合理なのか?
・組織づくりは、意思決定連鎖のマネジメント。
・選択肢が増えても、正しい意思決定ができるチームにするには?
・選択力を上げる「調整の設計10」。
・選択肢を減らす「分業の設計5」。


トップの意思決定はなぜ不合理なのか?

サイモンは意思決定の法則として「限定合理性」を解明しました。これは簡単にいえば「自分の頭の中にない選択肢は、選べない」ということです。どんな優秀な人でも、人数が増えると全て把握することは難しくなり、意思決定は不合理になります。8人を超えると会議の質は下がるとされますが、ましてや100人、1000人と人が増えてはトップはもちろん、現場でも知らないことが増え、正しい選択は困難になります。これは「人の能力の限界」故の問題で、人力で解決することは不可能です。

こうした「人の情報認識の限界」に注目し、組織デザインで「人の限界を突破し、正しい意思決定を実現」するのがサイモンの姿勢です。例えば組織デザインの例で言えば、「ティール組織」はボトムアップで意思決定しやすい情報のデザインがされています。

ティール組織の情報デザインの特徴
・意思決定に必要な情報が、透明化されている。
・どのように意思決定すれば良いか、可視化されている。
・どんな組織内の振るいが評価されるか、可視化されている。

必要な情報が共有されず、決定方法や、どんな決定が評価されるか分からない組織では、正しい意思決定は出来ません。流通情報の質が高いことで、初めて正しい意思決定は実現できるのです。こうした正しい情報のデザインで、人の意思決定パフォーマンスを上げるのが組織デザインの真髄です。

組織づくりは、意思決定連鎖のマネジメント。

経営やマネジメントの役割は「情報のデザインを行い、組織内の意思決定のシステムが働いているか管理すること」です。自らが意思決定をすれば人の限界にぶつかり、「不合理の罠」から抜け出せません。

組織づくりは「人数が増えても、意思決定パフォーマンスが高いチーム」をつくることであり、そのためには「情報が綺麗にながれ、意思決定の連鎖」がドミノ倒しのように起こる状態を、組織デザインで実現する必要があります。こうした状態により「経営やマネジメント自らが関わらなくても、業務の意思決定の質が落ちない組織」を実現できるのです。

選択肢が増えても、正しい意思決定ができるチームにするには?

J.R. ガルブレイスの「コンティンジェンシー組織論」は組織デザイン論の集大成と言われ、私も含め多くの組織コンサルタントに愛用されてます。簡単にまとめると「選択肢が増えても、正しい選択ができる」ほど、組織パフォーマンスがたかいということです。原典を抽象化して説明すると下記のようになります。

不確実性高い環境とは、選択肢が多く迷いやすい状況をさします。フィッツの法則では「人は選択肢が増えるほど、意思決定に時間がかかる」とされ、例えば「市場変化が早い」ことや、「人数が多い」ことも不確実性が上がる要因となり、「選択肢」が増えてパフォーマンスは落ちます。

組織の選択力(情報処理力)が高いとは「選択肢を収集し、その中から素早く意思決定する力がある」ことを指します。どんなに市場変化が早くても、適宜正しい意思決定ができれば問題は発生しません。また人数が増えても、少人数チームのように素早い意思決定ができれば、それだけで勝利要因となります。組織デザインはこの「組織の選択力(情報処理力)」をいかにあげるかの取り組みとなります。

組織デザインはこの法則に着目して「選択肢を、減らす」「選択力を、あげる」、この2種類のアプローチで組織の意思決定パフォーマンスを向上させます。チームに人が増えても、フェーズに合わせた情報設計をすれば正しい意思決定は実現することが可能です。

組織デザインのアプローチはUIデザインの設計思想とも似ており、サービス開発を行うデザイナーであれば馴染み深い方法論かもしれません。

次項目では具体的な組織デザインの方法論を紹介していきます。

組織の選択力を上げる「調整の設計10」。

「選択肢の数に対し、正しく選択する力がある」ことが組織パフォーマンスを決めるのですが、「調整の設計」では「人と人をつなぐ情報のパイプの設計」をすることで、人同士の調整を楽にして「選択力」を高めます。ガルブレイスが紹介する、組織の選択力を高める「調整設計の10つの方法論」を、筆者知見も踏まえながら紹介します。

1). 人と人が働く、ルールとプロセスを決める

  • 方法:共通のルールをつくることで、都度調整する必要をなくします。
  • 事例:仕事する上でのマニュアルをつくる。他者と仕事する上でのルールをつくります。
  • 課題:最もコストが低く、まず着手すべき方法です。ただし多くの場合これだけでは問題解決しません。

2). 意思決定プロセスを決める

  • 方法:意思決定プロセスを明確にし、それを活用します。
  • 事例:意思決定の場を用意し、提案/稟議にかけるプロセスを明確にし、利用します。
  • 課題:会議設計、ファシリテーション力にも依存し、育成も必要です。また上手く設計を行わないと、ボトムアップの意思決定が抑制されます。

3). 組織全体の目標の可視化する

  • 方法:経営から現場まで、目標計画を可視化することで、意思決定基準を明確にします。
  • 事例:KPIツリーにより組織目標のつながりを可視化し「なぜこれをやる必要があるのか」を理解しやすくします。
  • 課題:MBO/OKR等のKPI構造分解は、MGRにもメンバーにも高い論理思考力が求められ、育成に多くの時間を要します。

4). 情報処理システムをつくる

  • 方法:各人員が意思決定するのに必要な情報を、定期共有する仕組みをつくります。
  • 事例:定量/定性合わせた管理システムを導入し、定期で情報共有される仕組みをつくります。
  • 課題:ありがちなのが情報の全共有ですが、逆に「選択肢が増え」意思決定が遅くなり本末転倒です。あくまで「共有された側に役立つ、情報の共有」が大切です。

5). 直接コンタクトの活用をする

  • 方法:組織構造を飛ばし、担当者同士が直接コンタクトできる仕組みをつくります。ただし混乱が起きないよう、オフィシャルなレポートラインにも同時共有される仕組みも必要です。
  • 事例:例えばSlackにchをつくり、オープンで担当者同士がやりとりすることで、オフィシャルなレポートにも同時共有されるようにします。
  • 課題:チームの自律性が高くなり、直接コンタクトが増えるほど「車輪の再発明」がおき組織内の混乱が高まることがあります。そうした場合には、次以降の施策を試しましょう。

6). 情報集約と調整の担当をたてる

  • 方法:業務情報を集約し、各メンバー調整を行う担当を組織内に立てます。
  • 事例:組織内にPMをたて、各定例の情報管理や、意思決定事項に対するリマインドを行います。
  • 課題:組織推進のPMには一定の組織マネジメント力が必要なので、PMの育成に多くの時間を要します。

7). 臨時の問題解決チームをつくる

  • 方法:特定問題の解決のため、メンバーを集めます。
  • 事例:部門内で頻発する「品質」「生産性」「調整」等の課題に対し、一時的にタスクフォースを集めて問題解決に当たります。
  • 課題:漠然とした問題意識だけでチームが集まるだけだと、えてして離散しがちです。臨時とは言え、誰がが責任者としてコミットをする必要があります。

8). プロジェクトチームをつくる

  • 方法:臨時ではなく、定例的に集まり問題を解決をおこなうチームをつくります。
  • 事例:部門内課題に対して、具体的な目的を決めた上で、問題解決に当たります。
  • 課題:平常的な業務もありながら進めることになるため、一次的な負荷は高まります。

9). 部門をつくる

  • 方法:部門をつくりあげ、特定ミッションに基づいた業務推進を行います。
  • 事例:既存部門が持っているミッションから切り出し、新たな部門をつくりあげます。
  • 課題:7-8のプロセスを通り、成功体験を積んだ上での部門化は成功しやすいのですが、いきなり部門をつくることは失敗に終わりやすくお勧めできません。まずは7-8でプロトタイプ的に進めることをお勧めします。

10). マトリクス組織をつくる

  • 方法:横断組織をつくりあげ、全社最適機能を持たせます。成功すれば最も効果が高い施策です。
  • 事例:生産/技術/ブランド/デザインなどの横断組織をつくり、点在する情報を集約して、意思決定できるようにする。
  • 課題:横断組織設計と変革は非常に困難を伴います。変革には数年を要し、成功したとしても維持には1-9の調整コストがかかり続けることとなります。乗り越えるにも人員に大きな負荷がかかるため、トレードオフを加味した上で慎重な意思決定をお勧めいたします。

「調整の設計」は1ほど単純で難易度が低いのですが、成功した際の成果は微々たるものです。逆に10は成功した際の成果は高いのですが、非常に難易度が高い施策です。組織デザインの基本は「小さな施策で、大きな成果」です。地味ではありますが、まず小さな施策から試すことをお勧めします。

選択肢を減らす「分業の設計5」。

「選択肢に対し、選択する力がある」ことが組織パフォーマンスを決めるのですが、それならそもそも「選択肢を減らす」ことで、意思決定の質をあげるのが「分業の設計」です。「分業の設計」はその名の通り、業務分割することで人と人が調整する必要を減らし、業務遂行の難易度を下げます。

ガルブレイスが紹介している方法論を5つ筆者の知見も踏まえながら紹介します。

11). 目標の複雑さを下げる。

  • 方法:複雑な目標を、できる限りシンプルな目標にして選択肢を減らします。
  • 事例:複数目標を追う部門を分割し、単独目標だけ追いかければ良いようにします。ないしは抽象的な目標(とマネジメントが感じる目標)  に対し、具体解決策を用意して補助を行います。
  • 課題:負荷を下げればワークはしますが、そればかりでは人員の「情報処理力」は上がりません。負荷を下げつつも、丁度良い訓練になる複雑性を用意する必要があります。

12). 分業の度合いを低くする。 

  • 方法:1人(1つの部署)が複数の役割を担うようにして他者との「調整コスト」を下げます。
  • 事例:開発人員が、プロダクトマネジメント・デザイナー・エンジニアリングなど複数職域をかねる役割設定や、スクラム開発などの職能訓練を行う。
  • 課題:分業度合いを低くすると理論上は大いに生産性は向上しますが、人員教育コストはかなり必要となります。また人員には専門技能より、根本的な「情報処理能力」を高めることが求められます。

13). アウトプットの多様性を削減する。

  • 方法:成果物の自由度を下げることで、選択肢を減らします。
  • 事例:オーダーメイド性の製品を、製品群の規定を行うことで、選択肢を減らします。
  • 課題:多様性の削減は「製品のマーケットポジション」や「内部人員の意欲」にも関与するポイントのため、慎重に行う必要があります。少しづつ定義を狭めながら、確証を得た上での削減をお勧めします。

14). 資源の余剰をつくる。

  • 方法:資源を多めに抱えることで、業務に対するリソース余白をつくります。
  • 事例:人員を多めに抱えることで、特定業務にあたる人数を増やし、リソース余白をつくります。
  • 課題:コストは増えますが、結果的に意思決定速度は高まります。ただし闇雲に人数を増やすのではなく、「情報処理能力が高い人員」が増えたときのみ、有効です。

15). 調整せず自己完結できる部門にする。

  • 方法:事業部型組織などにより、リソースを専有化する。
  • 事例:大型組織化すると、他部門との調整コストが高くなります。その解決として事業部毎に専有リソースを配置し、他部門と調整が必要なく意思決定できるようにします。
  • 課題:全体最適化がなくなるため、規模の経済性がうすれます。また大胆な権限移譲をしないと、かえって調整コストが高くなるエラーも起こります。カンパニー制などは非常に難易度が高い施策なので、まず他手段で解決できないか検討をお勧めします。

分業の設計は「ハコ」だけ先につくり、後から具体方法を考えるケースが多く見られ、具体的なメリットデメリットを踏まえない「WHYがない設計」になりがちです。
経営学者ミッツバーグは「組織はトレンドよりも、戦略に適合した設計をすべき」と述べているように、WHYから組織設計を考え実行できるようにしましょう。また繰り返し述べますが、「大きい施策より小さな改善」により課題が解決できないか考えましょう。


組織デザインは正しい意思決定を実現する「情報科学」。

組織は不確実性を減らし、人の力を超えた意思決定を実現する「情報科学」です。不確実性に対応できる組織が成長する中、「組織フェーズに合わせた情報のデザイン」は組織パフォーマンスをあげるのにとても効果的です。

そして人数が増えても正しい意思決定ができる組織づくりには、安易に経営/マネジメントが業務意思決定をするのではなく、現場がボトムアップで意思決定できる状態を目指すことが重要といえます。

よりよいチームの意思決定の実現のために、「情報科学としての組織デザイン」を踏まえプランニングしてみるのはいかがでしょうか。以上、ミナベより組織デザイン概論でした。


ミミクリ &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。

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