デザインが事業貢献できることを経営層へ説明するメモ。

デザイン組織支援のご相談を受ける際、必ず「デザインへの投資に対するリターン」についてのご質問を頂くのですが、経営活動において、ROIが不明な施策に対する意思決定は難しいため、気にするのは当然かと思います。またデザインといっても多様な方法論があり、“デザイン”の種類によって定義や対象が統一されていないことも、この議論を複雑化している要因としてあげられるかと思います。

ということで自分へのメモがてら「デザインが事業貢献できることを経営層へ説明するメモ」を方法論の領域別にまとめました。まとめた内容は下記です。

1.顧客獲得
2.ブランド
3.事業開発
4.組織開発
5.組織設計
6.おまけ


1.顧客獲得方法としての、デザイン

マーケティング

事業利益につながる最も歴史あるデザイン効果証明は”マーケティングレスポンス”です。広告の父と呼ばれるデイヴィッド・オグルヴィは「広告とは技術である”我々は売る、そうでなければ存在する価値がない。」と述べましたが、デザインの技術は”売る力”でもあります。デザインは効果検証を繰り返し成果を上げるマーケティング手法として、100年近い歴史があります。最近DXが話題ですが、リアルタイム数値分析を可能とする技術進化により、よりデザインの”機能性”への注目が高まっています。

利益追求に優れたデザイナーとは

正しい知識と経験を身につけたデザイナーなら、目的に対し最適な手段をデリバリーし、成果を最大化できます。またシニアであれば「マーケター」の知識も越境して持たれているケースもあり、単独で成長サイクルを回す事が可能です。中にはプロダクト・マーケティングに造詣が深く、プロダクトのグロース設計や事業づくりの責任を負える猛者もいますが、まだ少数でないかと思います。

デザインを通じた、マーケティング活動のROI

マーケティング施策全体において、デザイナーには干渉範囲のKPIを任せられます。その指標の事業貢献率により、ROIは試算可能です。P/Lに貢献できる最もシンプルな方法と言えます。


2.ブランド活動としての、デザイン

ブランド

ブランドとは企業や製品を取りまく”言葉/態度/印象”など象徴的な特性のことです。ブランドは「日々の言動」「プロダクト品質や機能」「情報発信活動」等で形づくられ、近年デザイン・リーダーシップの発揮が重要とされています。

デザイン・リーダーシップ

デザイン・リーダーシップは研究分野でも取り上げられ「デザインの考え方を元にして、組織マネジメントを推進」する概念です。下記はデザイン・リーダーシップについての補足です。

「ターナーとパトリアンは、デザインリーダーシップとは、①未来を描くこと、②戦略的意思を表明すること、③デザインへの投資を指揮すること、④コーポレート・レピュテーションを管理すること、⑤イノベーションを生む土壌をつくり・育むこと、⑥デザイン・リーダーシップを訓練すること、という6つの要素に、それぞれ意識的に取り組むことであるとしている」

デザインマネジメント論-ビジネスにおけるデザインの意義と役割 著者八重樫文 安藤拓生 2019

未来を描き、戦略意思を言語化する

戦略をストーリーテリングする言語化/視覚化力は、近代デザイナーの基礎スキルです。従来のプロダクト等の視覚的設計だけではなく、PR/広報などの発信活動においてもデザイナーの領域は拡張しています。デザイン・リーダーシップを発揮するトップデザイナーの在籍は、ブランドを優位にするには欠かせません。

コーポレートレピュテーションの管理

デザイン・リーダーシップはデザインスターに依存しがちですが、社内外に対する発信活動の組織化の流れも産まれており、組織的なブランドづくりが進められています。

デザインを通じた、ブランド活動のROI

デザイン・リーダーシップの発揮で成果を生み出しやすい指標は採用活動です。事業成長の指標観点では「デザイン単体」や「広報活動」だけでブランドは生まれないので、一考余地があります。ただブランド経営指標の研究や、NPSを活用した指標化も国内で進んでおり、事業内容によっては適応することもあります。


3.事業開発活動としての、デザイン

プロトタイプの圧倒的な推進力

会議で時間をつかうより、つくって市場検証するデザイン・プロトタイプの効率性は広く知られました。またデザイン活用し、チームの意思決定や開発速度を早めることの有用性も疑う余地はなく、もはやリーン(無駄なく効率的)な開発では欠かせない要素です。

デザイン主導の新規事業開発 

EUでは新規事業開発の鍵として、意味のイノベーション(デザイン・ドリブン・イノベーション)があげられています。デザイン思考が「問題解決手法」であるのに対し、意味のイノベーションは「問題自体を問いなおす」手法です。例えばAirbnbが事業の意味を”民泊プラットフォーム”ではなく”人同士の出会いの体験提供”を行うことし事業を伸ばしたように、市場飽和した環境では大きな成果が期待されます。

優秀な事業開発に貢献するデザイナーとは

優秀なデザイナーは”意味のイノベーション”と”デザイン・プロトタイプ”を使いこなしながら、イノベーターでありながらコラボレーターとしての性質を持ちます。事業の意味を問い直し、プロトタイプを活用しながらチームの意思決定をうながし開発をリードします。優れたトップデザイナーがいる事で、新規事業開発の推進力が早まる事は多くのスタートアップで証明されています。

融けるデザイン領域の現実論

有るべき論をここまでしましたが、開発現場の現実的なデザインで言えば、プロダクトマネジメント/エンジニアリングとの境目が融けており、優秀なデザイナーほど「業務が従来のデザイン領域ではない」言われます。デザインの”イノベーター&コラボレーター”の思想をそのままに、デザイン手法にこだわりを持たず、事業全体をリードする姿が現実的な姿です。

デザインを通じた、事業開発のROI

デザイン単体の指標管理よりも、チームとして事業成果を産めるかが焦点です。事業進捗に対し、デザインのKR(keyresult)が、どの程度還元されているかを図ります。


4.組織開発活動としての、デザイン

対話の場のデザイン

この数年は組織開発がトレンドとなりました。組織拡大と共に「組織の求心力」が下がり、同じ目的へ向かう姿勢が希薄化します。こうした問題を解決し、同じ目的に向かう組織状態を産みだすのが組織開発です。こうした組織開発を推進する「対話の場のデザイン(ワークショップデザイン)」も活発化しており、実践的な場で有効性が確認されています。

問題解決より、問題提議

デザイン・プロトタイプやアジャイル・ソフトウエア開発の普及で、効率的にチーム開発を進める方法論が普及しました。しかし「事業が解決すべき問題」が間違っていれば、どんなに効率的に開発を進めても目的は達成できません。そうした課題感から「問題解決」より「何を解決すべきか」を検証する重要性が提唱されています。同時に「何を解決すべきか」をチーム全員で認識しながら、自分事化していく方法論として「組織開発」は注目されています。

※参考 資生堂の社員46000人にビジョンに向けた行動指針を浸透させる-不可能を可能にしたワークショップデザインとは?

エンプロイエクスペリエンスデザイン

EXデザインは従業員の就業体験設計を行い、エンゲージメントを高める活動です。この中で組織開発は勿論、制度設計も含めて、人事企画をデザイン方法論を用いアプローチします。多くのプロダクトマネージャーが、事業課題の解決に取り組んでいたはずが、組織の壁にぶつかる話はよくある話です。こうした背景をもとに、組織課題にアプローチする組織開発が有用とされています。

デザインを通じた、組織開発のROI

検証しやすい指標は従業員の定着率(離職率)です。1つの目的に向かう求心力を得ることにより、分かりやすく数値反映がなされます。ただ組織開発の目的は最終的に「事業活動の推進」なので、定着率(離職率)が目的化しない様に配慮することが大切です。


5.組織設計活動としての、デザイン

デザイン経営

経済産業省から2018年に発令されたデザイン経営宣言ですが、デザイン組織を社内につくり上げ、再現性を持ち事業貢献する活動と私は認識しています。この数年国内でデザイン組織への投資が増えており、状況が変化しています。

組織デザイン

組織デザインは組織構造や制度設計を対象としたデザイン方法論です。経営学分野で発展し、組織コンサルタントによりアップデートされてきました。デザイン経営も闇雲にすればいい訳でなく、デザイン活動に再現性を持たせる為に組織化を行い、事業貢献が経常的にされる状態の実現が必要です。

デザイン成果物のマネジメント

はじめに焦点となるのが成果物(を通じた成果)のマネジメントです。マーケティングによる数値成果、ブランドによるレピュテーション向上、事業開発による事業成長や、組織開発における求心力向上など、「成果管理」の再現設計を行います。ポイントは(a)デザイナースキルの指標設計と育成、(b)デザイナーが創造性発揮できる環境設計、(c)デザイン成果物の品質管理体制です。

デザインプロセスのマネジメント

「組織文化やワークプロセスが、生産性や品質に寄与し、他社が模倣困難なものは競争優位源泉になる」と、経営学における資源ベース理論で説明がされています。有名な例で言えば「トヨタのカイゼン」があげられます。同様にデザイン活動が組織プロセスとして模倣困難なものになれば競争優位になりえます。ポイントとしては(A)デザインプロセスの設計、(B)他部署横断した開発プロセスの設計、(C)経営の意思決定プロセスの設計です。

デザイン組織のROI

組織ROIをモデル化し、投資に対する「数値予測」「数値管理」できる状態にする事がスタート地点です。組織デザインにより「デザインの組織的ROI」は検証可能になります。


おまけ:実験や研究としての、デザイン

デザインを主語として

ここまで経営を主語に、デザイン投資のメリットを説明しました。ここで逆目線で「デザイン」を主語に簡単に解説したいと考えています。

実験文化

デザインは長い間、「アート」「音楽」「演劇」「映画」「小説」「詩」などと同様に「文化」として扱われてきました。デザイナーは文化人として扱われ、非デザイナーでも「音楽」を嗜むようにデザインへの批評を行っていました(デザイン文化に焦点を当てた雑誌も当時人気でした)。今ではこうした文化が揶揄される事も多いのですが、創作意欲を大切に「実験活動」を行うクリエイター達により「新しい方法論」は発掘され、それらが実践された結果「ビジネス現場のデザイン」が発達したのも事実です。デザインの創作活動としての側面が根絶されれば、方法論のアップデートは停滞するでしょう。

研究分野

デザイン方法論はあらゆる分野で拡張が試みられ、成果も生まれるようになりました。研究分野では今でも世界中でデザイン方法論のアップデートと、検証が行われています。「○○デザイン」「デザイン○○」など多様なデザイン論が展開されているのは、その研究結果です。その中には有効性が確認されたものもあれば、コンセプトは素晴らしかったものの、時代と共に廃れた考えもあります。しかし研究者達の日々のたゆまぬ探索活動により、マーケティング、ブランド、事業開発、組織開発などの分野が発達を遂げ、事業貢献できる様になりました。

短期ROI証明が困難なデザイン投資

こうした実験や研究は「ROI証明が困難」な領域です。しかし探索的な活動を行わなければ新しい方法論が生まれることもなく、未来もありません。私が共同代表を務めるミミクリ&ドングリが、こうした実験活動に投資を行っているのは、短期ROI証明が困難な投資を中長期目線で行うことで、新たなイノベーションの芽が生まれると強く信じているからです。

またこうした”デザインチャレンジ”と”事業貢献するデザイン活動”は、両軸を大切にしながらベストバランスを探るべきと考えています。デザイン自身もまた目の前の短期的成功と、中長期的な視野を持った探索活動を果たしていかなければなりません。


おわりに

デザインを通じた事業貢献は発達し、成果をだしてきました。と言いつつも、今まで組織的にデザイン投資を深めてこなかった企業からすれば、デザイン投資を深めるには覚悟は必要です。ただ投資した先には競合優位性を築く未来が待っています。ぜひできるところから、少しづつデザインを取り入れていただけたら嬉しいです。

以上、ミナベからでした!


ミミクリ &ドングリはデザインの力で創造性の土壌を耕し、組織の課題解決を実践するデザインファームです。40名の研究者、ファシリテーター、コンサルタント、デザイナーが在籍しながら、具体的な技術から思想や哲学まで含めた広い意味での方法論 (methodology) を学術的に研究しています。

学術研究を裏づけにしながら、組織をよりよくするお手伝いをさせて頂いた実例資料を無料配布しております。下記よりぜひご確認ください。

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